ある15歳の日記

 

 今日が何日かはどうでもいい。ここに書くのは、必ずしも今日のことじゃないからだ。この日記は特別なものだ。普通、日記は人に見せないものだけど、僕はこれを誰かに見てもらいたくて書いた。書こうかどうか迷ったけど、後々もどかしい思いをするくらいなら、今一気に書いてしまった方がいい。

 僕の思いを誰かに聞いてほしい。誰でも、いいんだ・・。

 

 僕は吏祢。15歳。この春、高校一年生になって、美術部に入ったばかりだ。

 

 最近夢を見る。内容はよく覚えてないものが多いけど、生や死に深く関わるものだった気がする。そのせいで、何だか、今とても不思議な感覚に陥ってる。この宇宙の中に、僕という生命体が浮かんでいる。僕は宇宙を作っている無数の細胞の一つの、その細胞質の一つでしかないのだ。僕という生き物は、何なのだろう。

 それでも僕は死ぬことを恐れている。今日や明日、自分が死ぬのではないかと錯覚したことが何度もある。全て、幻に終わったが。今回もそうであってほしいと願う。

 

 自分のことが嫌いという人は多いけれど、僕は自分が好きだ。僕は自分を持っている。僕は自分を褒めることも、けなすこともできる。人に左右されることがなく、自分を貫くことができるのが、僕だ。

 

 生きていて、これでいいのか、と思う。僕はこんな場所にいていいのか。普通の学校に通って、普通の場所で暮らして・・。僕が選んだ訳じゃない。そうせざるをえなかったんだ。もしそうでなかったら、僕はもっと違う人生が待ってたんじゃないか。毎日がスリルとエキサイティング。毎日、生きることに精を出し、それで生きてることを実感する。僕は、僕の愛する海に出て、山を愛する人は山に行く。もともと僕らの先祖は、そんな感じだったのだろう。死や、その危険をなくして、生を感じることはできないと思う。

 それとも、僕の勝手な思い込みなのかな。

 

 楽しくない訳じゃない。かいつまんで見つめれば、僕はとても幸せ者だ。この辺りじゃ一番の進学校に通っていて、学校じゃちょっとした人気者だ。中学のときもそうだった。廊下でも声をかけられ、ちょっとした芸を披露してみせる。皆は感嘆したり、真似してみようとしたり。

 新しい友達は、最初はできなかった。周りはもう皆仲のいい友達・・それらしきものを作っていた。取り残されたような不安もあったが、結局はこれでよかったと思う。本当に気の合う友達を探すことができたからだ。

 

 生きていればつきものなのは、恋。これは、本当に理不尽なものだ。理屈じゃ到底現せない。何か魔法でもかけられたように、相手に夢中になって、尽くしたくなる。それが長く続くときもあれば、すぐに終わることもある。終わった後は、赤の他人同然だ。思い返しても、何故その人だけに、あれほど夢中になったのか分からない。長所をあげろと言うならいくらでも見つかるけど、好きなことへは繋がらないのだ。恋は、本当に魔法なんだと思う。

 僕もいろいろな恋をしたけど、叶わないで終わった。後から思えば、悔しかったのもある。打ち明けていれば、もしかしたら成功したかもしれない。・・でも、到底できなかった。勇気がなくて。

 画面の中の女優を好きになることもある。彼女はとてもセクシーで、魅力的で、妖しい雰囲気があって・・あまりに女性らしくて、そこに僕は引きつけられたんだと思う。

 何をすればいいのか分からない。とりあえず、彼女のオフィシャルサイトに定期的に足を運んでいる。イタリア語で分からない・・彼女はイタリア人だ。ラテン系の美女だ。

 とにかくそこで見るのは写真だけ。彼女の肌と、しなやかな身体。肉体美。僕はうっとりし、癒される。

 

 恋と混同されがちだけど、愛もある。愛は恋よりもずっと強いんだと思う。例えば、恋は特定の人だけだけど、愛は人によってはもっと多い。対象が、人だけに限られない。動物や自然だったり、ある種の趣味や嗜好だったり・・それとも、もっと大きなものだったり、素晴らしいものだったり。

 僕は愛してるんだろうか。愛してる気がする。でも、漠然としていて答えられない。

 恋人ができれば、愛してるよって呟くんだろうけど。

 

 ここまで聞いて、僕のことをどう思っただろうか。たぶん、暗くてじめじめした、オタクっぽい性格の持ち主だと思ったろう。人によっては、眼鏡をかけて太っててニキビ顔で・・なんて所まで考えたかもしれない。

 特徴ある外見だと言われたことはあるけど、言っとくがそこまでひどくない。眼鏡もかけてないし、ニキビもたいしたことないし、見た目にはそこまで太ってるようには思えない。

 

 でも、これを書くと僕は本当に狂ってるように思われるかもしれない。僕は何者でもないんだ。生きてきた年数は15年。一応男だと思っているけど、そうではない。女だと言われれば腹が立ち、女のように見える特徴を自分で見つけてしまえば、悲しくなるだけだ。

 でも僕は男だ。いや、ひょっとすると女かもしれない。

 名前は吏祢だと思っている。でも分からない。誰が付けた名前なんだ? 親か。親って、誰だ?

 

 小説を書いている。僕の楽しみの一つであり、気持ちを整理するためでもある。主人公は女の子。僕にそっくりだ。違うのは、性別。それから、生い立ちもちょっと違う。それから変わるのは、この先の運命・・かな。

 小説は、友達の何人かには見せた。短編形式で、彼女やそのまわりにまつわるお話がいくつもある。それなりに興味を持ってくれたようだった。

 主人公の名前は、いろいろ考えた。でも、何故かこれしかないような気がした。全く合わない気もするのに、なれてしまって、他に考えられなくなったのだ。

 彼女の名前は、クリスティーヌ。

 

 

                  完

[PR]動画